和菓子の製法~『村雨(餡)製』編

和菓子

こんにちは、年間100個以上の和菓子を食べるきりこです。

『こなし』『練りきり製』から始まった和菓子の製法シリーズも、これで12話目。いつの間にか10話を超えていたんですねー。

参考:和菓子図鑑

今回ご紹介するのは『村雨(餡)製』。あまり聞き馴染みのない和菓子の製法ですよね。一体どんな和菓子が出てくるのか、乞うご期待ください。

『村雨(むらさめ)』の由来、製法

急激に降ったり弱くなったりする、晩秋から初冬の頃に降る雨のことを村雨といいます。群れをなして降る様子から、村雨といわれるようになりました。

村雨のあとは冷え枯れた雰囲気が辺りを包み込み、しみじみとした情景を醸し出します。寂蓮法師(じゃくれんほうし)が、村雨のあとの風景を詠んだ和歌がこちらです⏬(「新古今集」より)。

にわか雨のあと、その露もまだ乾ききらない真木の葉に、霧が立ちのぼる秋の夕暮れだなぁ…どこか寂寥感を感じさせる歌ですね。

『村雨』の製法

  1. 固めに炊いたこし餡に米粉(もち米や寒梅粉)を混ぜ合わせて練り、そぼろ状にする。
  2. 蒸籠(せいろ)に敷きつめ、じっくりと蒸し上げる。

蒸すことで、米粉の性質により『村雨(餡)』独特のホロホロした口あたりが生み出されます。

『村雨』は《御菓子司 塩五》の登録商標

《御菓子司 塩五》は、創業安政元年(1854年)大阪府貝塚市にある老舗和菓子屋さんです。創業当時から作られている『村雨』は、和泉八景の【貝塚村雨】にちなんで名付けられたもの。『村雨』の商標登録は明治42年2月になされているので、製法の村雨(餡)はあっても商品名としては、『◯◯村雨』と他店では表記することになっています。

和泉八景とは

かつての和泉国(今の泉州の辺り)の特徴的な美しい八つの景色のこと。

《御菓子司塩五》の『村雨』は、北海道十勝産や丹波産などの上質の小豆を使用した生餡をベースとし、丁寧に作られた商品となっています。

「生餡」とは

やわらかく炊いて皮を取り除き、細かくすりつぶして、水分を搾り取ったもの。

穏やかで落ち着いた雰囲気の茶色の棹菓子で、甘さ控えめな泉州銘菓です。

『村雨(餡)』のそぼろを活かした和菓子

左:『秋景色』《和菓子結》

右:『菜の花』《両口屋是清》

ういろう製の和菓子をベースに、村雨そぼろ餡をまぶし、華やかさを演出した二品。ういろうのモチモチ感と、優しい口どけの村雨そぼろの取り合わせは絶品です。

こなしで型どられた紅葉の周りを、黄色や赤の村雨そぼろが彩っています。黒文字を入れるとほろほろと落ちる村雨が、まるで紅葉がはらはらと舞う景色のようで、風雅さを感じさせます。

若草色のういろうに、黄色の村雨そぼろ餡。『菜の花』そのものの配色ですね。菜の花は千利休が好んだ花、最後の時に見た花であることから、3月28日の【利休忌】を【菜の花忌】と呼ぶこともあります。

参考:利休忌と菜の花の和菓子

こし餡を巻いた『村雨(餡)』

『紅葉狩り』《不老園》

紅葉の型押しされたこし餡を、村雨でくるっと巻いて秋の情景を描きました。しっとりとしたこし餡と、ホロホロほどける村雨餡の食感の違いが楽しめる一品です。

華やかな紅葉の光景の中で、木々は冬ごもりの支度を始めている、そんな風情にも見えますね。

冒頭の《俵屋吉富》の『雲竜』や『白雲竜』も村雨で餡を巻いたタイプです。こちらは棹で販売されていたので、残念ながら購入には至っていません。棹菓子ってボリュームあるので、上生菓子を2,3個買うと後回しになってしまうんですよねー。

華やかな村雨『御題菓』

《両口屋是清》の『御題菓』

左:『彩雲』平成31年御題【光】

右:『里の神楽』令和3年御題【実】

※11月下旬から1月中旬くらいまで購入可能。

1月初旬、宮中行事「歌会始(うたかいはじめ)」で短歌に詠み込むべき事柄のことを御題といいます(次の年の御題は、その年の歌会始の終了後に発表されます)。御題菓は、その御題からイメージをふくらませ、約1年かかってつくる創作和菓子のことです。

同じ御題なのに、和菓子屋さんごとに解釈の仕方も和菓子の形状も違ってくるのが面白いところ。

令和3年【実】《鈴懸》の上生菓子『生る』↓

《両口屋是清》は毎年、土台を栗入り羊羹、御題に合わせた景色を村雨餡で表現した雅な棹菓子を展開されています。子どもも彩りの美しさと大きな栗に惹かれて食べたがります。半棹が、あっという間になくなりますね。

令和4年の御題は【窓】。どんな和菓子が生み出されるのか、今から楽しみでなりません。

金箔をあしらった村雨餡『万葉』

『万葉』《和菓子村上》

紫と黄色の二層の村雨餡で織り成す美しい和菓子。上下逆さま盛り付けたまま食べてしまいましたが、紫の面には金沢名産の金箔があしらわれています。

《和菓子村上》は創業 明治四十四年の金沢にある和菓子屋さんです。金沢は、京都・松江と並び、日本三大和菓子処。その中で伝統的な和菓子も継承しつつ、新感覚のスイーツ『餡屋 musubu』ブランドも展開されています。

“和洋を超え、昔と今を軽やかに行き来して生まれたちょっと新鮮で、どこか懐かしいお菓子”がコンセプト。

Dried fruits 羊羹はちょっと気になる商品。

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