こんにちは、年間100個以上の和菓子を食べるきりこです。
今回は、茶席でも花形の上生菓子『こなし製』と『練りきり製』について触れたいと思います。
●《鈴懸》正月和菓子
◇竹 こなし製白小豆つぶ餡
◇梅 練りきり製小豆こし餡
『こなし』と『練りきり』の違い
まずは、重陽の節句(9月9日)に食べられる上生菓子『着せ綿』を使って、こなしと練りきりを見比べてみましょう。
左:練りきり製《和の菓さんのう》 | 右:こなし製《花桔梗》 |
菓銘も意匠もほぼ同じですが、左の《和の菓さんのう》のは練りきり製。右の《花桔梗》のは、こなし製です。
『こなし』も『練りきり』も餡ベースで作られているので、素人目には見分けがつきにくい製法です。では、具体的にどう違うのでしょうか。
『こなし』の製法
- 白こし餡に小麦粉や上新粉を混ぜ合わせ蒸しあげる。
- 蒸して熱いうちに砂糖などを混ぜ、固さを調整しながら揉みこなす。
練りきりの製法
- 白こし餡につなぎとなる求肥や山の芋などを入れ、火にかけてしっかりと練り上げる。 ※求肥:白玉粉や餅粉に砂糖や水飴を加えて練り上げたもの
●『こなし』と『練りきり』 ◇つなぎの小麦粉と求肥が大きな違い。 ◇小麦粉がつなぎの『こなし』は、むちっとした弾力とややあっさりとした味わいになる。 ◇求肥がつなぎの『練りきり』は、柔らかさと粘りがある上品な甘さに仕上がる。 ◇関西では『こなし製』、関東では『練りきり製』が多用される。 |
春夏秋冬のこなし
春・夏を彩る『こなし』
◇左:春のこなし『桃の花』《両口屋是清》
◇右:夏のこなし『青田風』《両口屋是清》
『桃の花』は、木型を使って桃の花の意匠を表した一品です。花弁一枚一枚が、丁寧に浮き出ていて素敵ですね。一部だけ若草色なのも、春の野山を彷彿させます。ここの花びらだけ違う色をのせてあるのが注目ポイント!一見、型を使っているので簡単そうに見えますが、柔らかい餡を乾燥しないうちに綺麗に型どるのは、熟練の技といえるでしょう。
『青田風』とは、青々と成長した稲穂がいっせいに風になびくさまを表した季語です。夏は練り菓子よりも、口当たりが軽く、見た目も涼やかな和菓子が好まれます。この『青田風』は、菓銘と意匠で涼やかな風を感じられる一品になっています。季語の意味合いを知っていると、数本引かれた線がちゃんと稲穂に見えてくるから不思議です。
秋・冬を彩る『こなし』
◇左:秋のこなし『菊日和』《両口屋是清》
◇右:冬のこなし『巻紅梅』《両口屋是清》
『菊日和』とは、菊の花が咲く頃の好天気のことをいいます。こなしに丹念にハサミを入れて、見事な菊の花に仕上がっています。
秋には、菊を意匠とした和菓子がたくさん出回ります。春が桜なら、秋には菊、日本を象徴する花ですね。菊が家紋にも使われているのは、鎌倉時代に後鳥羽上皇が菊の花の意匠を好み「菊紋」を皇室の家紋としたからです。
『巻紅梅』は、梅の花の意匠を抽象化したものです。紅色を基調としたこなしに、ぐるっと円を描く白色の線、中央の黄色のきんとん。ぽってりとした梅の花にみえますね。
茶席でもてなされる上生菓子は、写実的なものではなく、抽象化したものから物語を読み取るのがよしとされています。
季節を彩る練りきり
春を彩る『練りきり』
◇左:『春告鳥』《和の菓さんのう》
◇右:『さくら』《和の菓さんのう》
夏の練りきりがなかったので、春のを2点ご用意いたしました。
『春告鳥』とは、ウグイスの別名。
冬の間「チャッチャ」と鳴いていたウグイスが、春の訪れとともに「ホーホケキョ」と綺麗なさえずりを聞かせてくれます。まさに、春を告げる鳥ですね。
冬の間の舌打ちするような地鳴きを『笹鳴(ささなき)』といいます。 |
薄い布に包んで絞り目を付けながら成形する《絞り》という技術で作られた和菓子です。一瞬の指運びで仕上がりに影響を及ぼす奥深い技法になります。
コロンとした可愛らしい鶯は、いったい何処から食べていいものやら悩ましいですね。
左:秋の練りきり『ハロウィン・パーティー!』《鈴懸》
右:冬の練りきり『御題菓子 生る(なる)』《鈴懸》
ハロウィンの時期は各店、カボチャを意匠とした和菓子を販売しています。《鈴懸》のは、カボチャ以外にもお月さまの錦玉やコウモリのすはまなどがセットになっていて、ハロウィンを盛り上げてくれる作品になっています。こういうのは、子どもと一緒に皿への盛り付け方を考える時間も楽しめますね。
『生る(なる)』とは、新たに始まる一年、焦らずじっくりと日々という樹に自分らしい形が生りますようにという思いを込めて作られた和菓子です。
【御題菓子】とは 毎年1月に、天皇が指定した御題に合わせた和歌を詠み披露する官中行事『歌会始(うたかいはじめ)』が開かれます。その歌のテーマをもとにして作られる創作和菓子のことを【御題菓子】といいます。 2021年のテーマは「実(じつ、みのり)」でした。各店、テーマからイメージをふくらませて菓銘・意匠を決めています。 |
まとめ
『こなし』や『練りきり』は、丸めた形だけでなく、こうした細工をするのにも適した製法になります。見ているだけでも華やかさに溢れていますね。今回、今まで食べた和菓子のなかで『練りきり』『こなし』を選り分けたのですが、思った以上にこなし製のものばかり食べていることが判明しました。
コメント
はじめまして、Liziと申します。
弊ブログで和菓子について記事(ほぼ日記)を書くにあたって、練り切りとこなしについて検索してこの記事にたどり着きました。
勝手ながらリンクさせていただきましたこと事後ですがご報告させていただきます。
不適切でしたら削除しますのでご一報ください。
かわいらしい和菓子の画像が沢山でとても素敵ですね。
他の記事もゆるゆる読ませていただきたいと思います。
Liziさん、ありがとうございます。ブログも読ませていただきました。
長男さんも気に入られた「和菓子のアン」シリーズは我が家にもあり、私も愛読しております✨「練りきり」のような上生菓子に「薯蕷練りきり」という製法のものもありますので、機会があれば長男さんと一緒に召し上がってみてくださいね。