和菓子の製法~『葛製』

和菓子

こんにちは、年間100個以上の和菓子を食べるきりこです。

我が家には風邪の引き始めに飲むために、葛根湯ドリンクが常備されています。葛根とは読んで字の如く葛の根のことで、身体を温める生薬成分があることから、和菓子や料理だけでなく、漢方薬としても古くから利用されています。

和菓子としては、くずきり、葛もち、葛饅頭、葛焼き…形を変えて色々楽しめる素材ですね。

左:『鬼灯』《月乃舎》 右:『葛焼き』《鈴懸》

今回は、そんな『葛製』にスポットを当ててみたいと思います。

『葛製』の製法

『青葉の影』《万年堂》
◇葛製白こし餡
◇賞味期限:当日中

葛製の和菓子は、つるんとした食感や見た目の涼やかさから夏場によく出回ります。

葛の根から抽出したデンプンのことを本葛(葛)といい、そのデンプンが根に貯まっている冬場に葛の収穫作業は始まります。

葛粉が出来るまで

  1. 冬山で、30~50年育った自生の葛の根を掘り出す。
  2. デンプンを取り出しやすいように、根っこを粉砕。
  3. 根っこの繊維を何度も水に晒して葛デンプンだけを抽出する。
  4. 撹拌・沈殿・水の入れ替えを繰り返し、灰汁の強い粗葛から綺麗な葛にする(10日~2週間)
  5. 表面上の微細な灰汁を取り除き、小さくカットする。
  6. 乾燥室で乾燥させる。

あの真っ白な美しい葛粉にするのは、大変な労力がかかるのです。

シンプルな葛製の和菓子の源である葛粉の成り立ちが分かったところで、実際に色んな葛製和菓子を見ていきましょう。

『淡墨の雲』葛製道明寺入り《両口屋是清》

『淡墨』を“たんぼく”と読めば、墨を薄めた色合いそのものですが、桜餅の意匠をしていることから“うすずみ”と読ませて、淡墨桜の見立てとしたほうが風情があってよいでしょう。

「淡墨桜」とは
散りぎわに淡い墨色に花びらが変化する桜のこと(蕾:薄ピンク、満開:白色)
岐阜県本巣市の根尾谷淡墨桜は樹齢1500年、日本三大桜の一つで、国指定天然記念物となっています。

桜葉の塩気と葛のつるりとした食感、道明寺の粒がいいアクセントになっています。

散り際の桜の花びらが、まるで雲のようにふわふわと風に舞って漂う、そんな情景が浮かぶ一品です。

『朝露』吉野葛製《亀広良》

「吉野葛」とは
奈良県吉野地域で《吉野晒し(よしのざらし)》と呼ばれる伝統工法で精製される葛のこと。

今はコロナ禍で市民茶会も参加出来ない状況ですが、こちらの和菓子は以前『春のお茶会スタンプラリー』でいただいたものです。

一度形を整えると崩れにくい葛の特性を活かして、朝の一瞬の情景を和菓子に閉じ込めました。

紫色と抹茶の餡が透けている様相は、まるで朝露に濡れた花菖蒲のようですね。この葛の透明度も、職人さんの熟練の技があってこそなのです。

『夕蛍』《両口屋是清》

薄闇に、ぼわっと光を放つ蛍が見事に表現された一品です。葛の透明度はそのまま綺麗な水辺を表しているのでしょうか。餡の色が2層に分かれ、下の漆黒と光の黄色が美しく調和しています。黒の小豆の一粒が蛍ですね。

『栗名月』《美濃忠》

中秋の名月の1ヶ月後を十三夜(「後の月(のちのつき)」)といい、栗や大豆をお供えすることから栗名月とも呼ばれています。本来、十五夜にお月見をしたら十三夜も必ずお月見するものとされていて、片方だけを祝うことを『片月見』といい、縁起が悪いという説もあります。

夏に多い葛製和菓子ですが、まんまるお月さまを表すのに、つるんとした見た目の葛は適した素材といえるでしょう。

まとめ

さまざまな趣向を凝らした葛製の和菓子、葛粉の作り方などを見ていただきましたが、いかがでしたか。シンプルな葛製和菓子にどんな物語が隠されているのかを想像するのも一興かと思います。

最後に、秋の七草とされている葛の花にもスポットを当てておしまいといたしましょう

萩の花 尾花 葛花 瞿麦(なでしこ)の花 女郎花 また藤袴 朝貌(あさがお)の花

山上憶良  万葉集 一五三八 巻八

※あさがおの花は“アサガオ”ではなく、桔梗のことであるのが通説です。

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