再読のすすめ『ひとがた流し』北村薫 著

おすすめ本

こんにちは、現在の積読11冊のきりこです。

本好きのあるある第一位は、きっと

まだ積読があるのに、また新しい本を買ってしまうこと

…間違いない!きりこも本棚のスペースを一段増やしたのに、

いったい、いつの間に…

などと、すっとぼけたことを呟いております。誰がこんなにした?と首をかしげてますが、自分ほかならないのです…

再読したくなる本が手元にあるので、積読本がなかなか減りません。こまった、困った。

今回は、そんな何度も読み返したくなる本をご紹介いたします。

『ひとがた流し』北村 薫 著

十代の頃から大切なときを共有にしてきた、アナウンサーの千波、シングルマザーで作家の牧子、元編集者で写真家の妻の美々。40代を迎え、今まで通り変わらぬ時を一緒に刻んでいくと思っていた矢先、千波の病が発覚し…

北村薫の魅力~時を越えてなお、心に沁みる文体

前回読んだのは20代の頃。40代の千波たちは遥か先をいく人生の先輩達でした。

面白いもので、あらすじは覚えているのに細部の記憶の濃度が違っています。今より若い私は、一体何を感じていたのだろう。ただ、変わらず思うことは

北村薫の文章が、好きだ。端的で美しい

千波が病気の兆候に気づくシーンを

そっと張りつけた桜貝のような色 とだけで表しています。

作者はあとがきで、千波の病名を敢えて書かなかったと記しています。闘病をメインに据えることなく、日常を丹念に淡々と描くことで「人と人の在り方」「生きるということ」をより鮮明に読者へ伝えたかったのかもしれません。

結末知っているだけに、何気なく交わされる会話の奥を感じとってしまい、胸がつまることも。静かなる哀しみと、猛烈な悔しさとがない交ぜになって感情を揺さぶられる作品です。それでも読後感が清々しさに包まれるのは、北村薫の綴る文章が、別れの哀しみも浄化させてくれるからかもしれません。

サイドストーリー『月の砂漠をさばさばと』を読んだことがある方なら、頼もしく成長したさきちゃん(牧子の娘)の姿も楽しめると思います。

印象に残った名シーン

父と血の繋がりがなかったことを偶然知ってしまい、混乱した玲(美々の娘)と千波が語り合うシーン

人が生きていく時、力になるのは

自分が生きてることを、切実に願う誰かが、いるかどうか

北村薫『ひとがた流し』第4章 泣不動より

千波は、自身をそう思われるに値しない人間だと思って生きてきました。孤高の人です。が、闘病生活が始まり、牧子や美々から(言葉に出さねど)ひしひしと伝わる思いを感じとったのでしょう。そして、

“小さなことの積み重ねを共有することが、共に生きたということ”だと玲に伝えます。

こういうナナメの関係っていいよなぁ

家族でもなく、友達でもなく、関係性は濃くはないけれど信頼のおける人。心地のよい第3の居場所(サードプレイス)って、大人にも子どもにも大事だなぁと、年を重ねるごとに感じるようになりました。特に子どもには必要ですね。世界を拡げたり、相談できる力を身に付けられたり…

千波がまっすぐに玲の言葉を待っている様子に、玲もまっすぐに自分の気持ちを伝えようする姿勢も素敵でした。

病院の渡り廊下で千波と牧子が相対するシーン

もう会うことはないと、共有してきた時間に決別する千波を、尊重する牧子。日常会話をしながら淡々と進められる今生の別れに、読者は息を止めて見守るしかありません。その淡々さに、2人で紡いできた時間の深みが走馬灯のように押し寄せてきます。

番外編

玲のバイト先の上司は、毎朝5階まで歩いて上ってくる。息も絶え絶えに。

「…おはよう…日高さんの顔を見ると、朝が来たって気がするよ」と、一日の終わりのような声でいう。

「ひとがた流し」第4章 泣不動

この落差に、おかしみを感じます。

こういうクスッと笑えるような表現が散りばめられているのも、北村薫作品の特徴ですね。

毎年、本棚に残すベスト10を選定しているのですが『ひとがた流し』は20年以上、きりこの本棚に残り続けています。頻繁に読み返すことがなくなっても

ただ、そこに確かにある そんな作品です。

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