こんにちは、年間100個以上の和菓子を食べるきりこです。
昨今、非常食としても注目を集める羊羹。《井村屋》の『えいようかん』のように、5年間の長期保存可能な商品も出てきています。通常のものでも賞味期限が1年くらいあるので、きりこの家では貰い物の羊羹を非常食セットに常備してあります。
今回は、そんな『羊羹製』についてお話ししたいと思います。
羊羹製の歴史
『羊羹製』とは流し菓子の一種で、小豆餡に寒天を加えて煮詰め、型に流し入れて固めたものをいいます。
- 【練羊羹(ねりようかん)】→寒天の量が多くしっかり固めたもの。一般的に羊羹といえば【練羊羹】を指す。
- 【水ようかん】→寒天の量が少なく水分が多いため口当たりが滑らかになるもの。
- 【蒸し羊羮】→小麦粉に葛を加えて蒸し固めたもの。
羊の羹(あつもの)と書くように、元々は中国で羊のスープとして出されていたもの(スープは冷めると煮こごり状態になる)。室町時代の頃、中国の禅僧より伝えられたが、戒律で肉食が禁じられているため小豆を代替としたものが日本の『羊羹』の原型と云われています。
かの夏目漱石も羊羹好きと知られ、著作にて羊羹のことを語っています。
あの肌合が滑らかに、緻密に、しかも半透明に光線を受ける具合は、どう見ても一個の美術品だ。ことに青味を帯びた練り上げ方は、玉と蝋石 (ろうせき) の雑種のようで、甚だ見て心持ちがいい。
夏目漱石『草枕』より
羊羮を食べたいなら種類豊富な《とらや》へ
『抹茶・季節の羊羮セット』《虎屋茶寮一乗寺店》にて |
《とらや》は室町時代後期に創業、1980年には《とらやパリ店》を開店するなど、世界規模で和菓子を広める老舗です。羊羮の種類も豊富で、味に合わせた菓名がついています。
- 小倉羊羹『夜の梅』
- 黒砂糖入羊羹『おもかげ』
- 抹茶入羊羹『新緑』
- 蜂蜜入羊羹『はちみつ』
- 紅茶入羊羹『紅茶』
- 和三盆糖入り羊羮『阿波の風』
二条城行った帰りに、和菓子に疎い夫も一緒に《虎屋菓寮》に立ち寄ったことがあります。素敵な空間でいただく季節の羊羮は格別なこと!また、いつか行きたいものですね。
秋の王道、栗蒸し羊羮
左『深山路』 《和の菓さんのう》 | 中『栗づくし』 《和の菓さんのう》 | 右『こぼれ栗』《鈴懸》 |
秋になるとお目見えする栗蒸し羊羮。『栗づくし』のようにシンプルなものもありますが、ほかの素材と掛け合わせたものも多く見られます。
『深山路(みやまじ)』や『こぼれ栗』は、どちらも浮島×羊羮の構成ですが、浮島の配分が違っています。『こぼれ栗』の方が、どっしりとしたつぶ餡の栗蒸し羊羮を味わえます。
「浮島」とは 餡に卵、砂糖、上新粉や小麦粉などを加え蒸し上げて作る和菓子。別名『蒸しカステラ』 |
『深山路』とは、深い山の中の道のこと。秋も深まり枯れた景色の中ひとり歩く、そんな情趣を感じさせる一品です。
華やかな棹菓子羊羮
左『里の神楽』《両口屋是清》 | 右『ハナモヨウ』《両口屋是清》 |
春の訪れを感じさせる色合いの村雨餡と羊羹との二層式の棹菓子です。
『里の神楽』は、令和3年の御題《実》をテーマにして作られた御題菓です。
華やかな村雨餡で黄金色の稲穂や農作物の実りに喜び溢れる里の情景を、その実りを生み出す大地を栗入り小豆羊羹で表現した一品です。
『ハナモヨウ』は、満開の桜の情景をみごとに表現したもの。小豆羊羹のなかには大納言、虎豆、うぐいす豆の3種類の豆が入り、ほろほろとほどける村雨餡とのバランスが絶妙な一品となっています。
羊羹製の上生菓子~花を表現
◇左:『花水仙』柚子餡《和の菓さんのう》
◇中:『花衣』羊羹&餅《両口屋是清》
◇右:『夕顔』羊羹&餅《花桔梗》
雪の中でも春の訪れを告げることから“雪中花”の別名を持つ水仙。艶やかな羊羹の黄色が、早春に清々しい芳香を漂わせる水仙の花を彷彿させます。
薄い餅製から透ける薄紅の羊羹、まさに『花衣』ですね。花衣とは桜襲(さくらがさね)という着物の色合わせのこと。着物の袷の表が白、裏が赤の襲(かさね)の色目で桜咲く春の情景を表現していました。餅皮に桜の焼き印、中の餡が若草色なのも春のうららかさを思わせます。
『夕顔』は、夏の夕方に白い花を咲かし翌朝に萎む花です。白い餅に薄紫の羊羹で、夕闇の侘しさが表現されています。
新春の慶びを表現~『富士遠望』
霊峰富士を背に茜色に染まる瑞祥あふれる新春の夜明け。淡雪羹と吉野羹で美しく表現されています。
毎年のように両口屋是清さんで販売される『富士遠望』、来年はどんな意匠かなぁと楽しみにしています。
「吉野羹」とは 煮詰めた錦玉に葛粉を入れて固めたもので、少し半透明のやさしい感じの仕上がり。奈良県吉野地方が良質な葛の産地であることに由来。 |
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