春の季語と和菓子

和菓子

こんにちは、年間100個以上の和菓子を食べるきりこです。

春は出会いと別れの季節。とはいえ、ついさっきお気に入りのカフェが3月末で閉店することを知って、いささか凹んでおります。

まぁ、このご時世なので全然行けてなかったのですが…

こんなときは、和菓子の写真でも眺めて心穏やかに過ごしましょう。

春の季語~日本語の面白味

時々、俳句の夏井いつき先生が出ている番組を見るのですが、いつも感心してしまいます。

たった17音で出来る、表現のゆたかさ

“てにをは”の違いで意味が大きく変わること

40代半ばになるというのに、まだまだ日本語を知らないなと気づかされます。

とくに、夏井先生の仰る

季語のちからを信じなさい

名言ですねー、惚れ惚れします。

さて、和菓子のなまえにも季語を使ったものが多くあります。17音どころか5音くらいしかない…その中で和菓子職人はどんな世界観をみせてくれるのでしょうか。

『下萌』(したもえ)

下萌とは早春、地中から草の芽が出始めること、またその芽を指します。

《花桔梗》煉薯蕷製

煉薯蕷は、山芋を蒸して裏ごししたあと砂糖を加えて練り上げている、手間暇かかった製法です。通常の練り切りに比べて、ふわっとした仕上がりになっています。見た目もなんだか柔らそうです。

ほんの少し入っている緑が、雪景色だった大地に少しずつ春がやって来るようすを表現していますね。

《川口屋》しぐれ製・ゆず餡

しぐれ製は、表面の亀裂が特徴の和菓子です。けっして、落として割ってしまったわけではありません(笑)。下の餡は抹茶と同じく、美しい緑色をしています。黒文字をスッと入れ、中から鮮やかな緑色が見えたときには思わず感嘆のこえをもらしました。写真では上手く撮れてないのが残念なほどです。

大地からのエネルギーを蓄えた芽が、今か今かと春を待ちわびているさまが表現されています。さっぱりとした柚子餡も、爽やかさを感じさせました。

『水温む』(みずぬるむ)

『水温む』とは、春になって寒さが緩み、池や川の水があたたかな感じになってくることをいいます。

《和の菓さんのう》桜葉羊羹製・吉野葛

写真だと、水色と白がくっきり分かれているようにみえますが、見る角度によって色合いが変わる繊細な和菓子です。白い部分が吉野葛でフワッとした口どけ、その上にみずいろに染めた道明寺がのっています。色のコントラストと食感のしかけ、両方が楽しめる一品です。一番下の層の桜葉の塩漬けも効いていますね。

きらきらひかる水面を覗きこんだかのような美しさ。水面に舞い降りたさくらの花弁もよいアクセントになっています。

『山笑う』(やまわらう)

『山笑う』とは、春の山の草木が一斉に芽吹き、明るい感じになるさまをいいます。

《川口屋》きんとん製・道明寺

川口屋の『山笑う』は、きんとんで道明寺餅を包んでいるので、餡玉よりも甘さ控えめな仕上がりになっています。

うっすらとしたピンクと緑が、草花の息吹を表しています。春の淡い色の重なりは、艶っぽさすら感じさせますね。

《鈴懸》きんとん製

鈴懸のは、つくね芋と蓬のきんとん。つくね芋を使っているので、少しねっとりとした仕上がりになっています。写真でみても柔らかそうな印象が伝わるのではないでしょうか。

緑と白のコントラストが効いていますね。さしずめ、色のない冬から緑あふれる春がやってきたという感じでしょうか。

『摘み草』(つみくさ)

『摘み草』とは、春さきに山野に出て食用になる蓬、芹、蒲公英、つくしなど摘むことをいいます。寒い冬を乗り越えた大地の恵みをいただく、そんな営みも表していています。

《両口屋是清》ういろう製

春は蓬の和菓子をたくさん見かけますね。きりこは、あの独特の香りが好きです。ひな祭り和菓子の回でもお話ししましたが、蓬はあの香気が邪気をはらうと重宝されていました。

こちらの《両口屋是清》の和菓子も、まるでまだ咲きはじめの花たちを蓬がその香気で守ってくれているようにもみえますね。

『花衣』(はなごろも)

『花衣』とは、花見に行くときに女性が着る晴れ着のことをいいます。古来は「桜襲(さくらがさね)」という着物の色合わせのことを指していました。着物の袷の表と裏、または装束を重ね着するときの色合わせで四季の移ろいを取り入れていたのです。表白、裏赤の襲(かさね)の色目で、さくら咲く春の情景を思い、さらには匂いまで感じ取っていたというのですから、その想像力の豊かさに驚くばかりです。襲(かさね)は平安時代に生まれた色の文化ですが、なんと典雅なこと!

両口屋是清の『花衣』は、表は餅皮製の白、裏は羊羹製の赤でみごとな桜襲が表現されています。なかの餡が若草色なのも素敵です。さくらと若草の色合わせを見ると、穏やかな気分になりますね。残念ながら実際この色合わせで服を着たら、顔が負けそうなのが残念なところです。平安時代の方はそういうことはなかったのでしょうか?

あらっ、あなた今日の色合わせ、顔うつり悪いわよ

フフッ ちょっと想像が飛躍しすぎましたね。

《和の菓さんのう》ういろう製さくら餡

和の菓さんのうの『花衣』は、折り重なる桜の花びらを表したものでしょうか。満開のさくらの光景がうがびますね。ふわりふわりと舞う花びらをまといながら桜並木を歩きたい、そう感じさせる一品です。

まとめ~和菓子のイマジネーション

ここまでいろんな春の和菓子をご覧になっていかがでしたでしょうか。こうしてみると、一見、和菓子は技巧ばかりに目が行きがちですが、その作品を織りなす創造性にも気づかれることと思います。

まだまだ紹介したい春の季語の和菓子がありますが、今日はここまでといたしましょう。

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