素敵な和菓子を手に入れたら、形が崩れないうちにまっすぐ家に帰りたいきりこです。
そんな私が今回おすすめする本は
『和菓子のアン』坂木司 著
また、和菓子か…と言われそうですが
和菓子×ミステリー(日常の謎)×デパ地下(人間模様) で面白いんだ!これが。
子どものころからミステリー小説好きで、シャーロックホームズ→三毛猫ホームズ(赤川次郎 著)→アガサ・クリスティと、サスペンスも日常の謎も読み込んできた身として、和菓子×ミステリーは、今までにない切り口でワクワクでしかありません。和菓子好きはもっと深みにはまり、さほどでない人も何だか和菓子を買いに行きたくなっちゃう魅力に溢れている作品です。
あらすじ
デパ地下の和菓子店「みつ屋」で働き始めた梅本杏子(通称アンちゃん)は、ちょっぴり(?)太めの十八歳。プロフェッショナルだけど個性的すぎる店長や同僚に囲まれる日々の中、歴史と遊び心に満ちた和菓子の奥深い魅力に目覚めていく。謎めいたお客さんたちの言動に秘められた意外な真相とは? 読めば思わず和菓子屋さんに走りたくなる、美味しいお仕事ミステリー! |
連作短編集なので、読みやすいですよ。
ではさっそく、和菓子×ミステリー×デパ地下のおすすめポイントをお話ししていきたいと思います。
個性豊かな登場人物
- 椿店長 和菓子の造詣も深く、プロフェッショナルな仕事ぶり。人当たりもよし。だが、バックヤードでは豹変、趣味炸裂。
- 立花 和菓子職人志望のイケメン社員。中身は乙女系男子。
- 桜井 可憐な見た目の女子大生。仕事ぶりもテキパキと有能な先輩アルバイト。…人には色んな過去があるよねー
《みつ屋》のメンバーの名前に、椿、橘、桜、梅と花の名が入っているのもさりげなくていいですねー。
ほかのサブキャラも際立つ魅力を放っています。あぁ、人間って面白い。
和菓子の見立ては謎に満ちている
和菓子は元々、色×形×銘で季節や行事ごとを表現する慣わしがあります。
左が猪に見立てた『亥の子餅』、右は鶯に見立てた『うぐいす餅』。
材料は、餅+きな粉でほぼ一緒。
和菓子の見立てを使って、社内政治の判じ物にしたり、恋のメッセージを送ったり…和菓子のもつ歴史や言葉の意味合いはミステリーの題材にぴったりです。「おはぎ七変化」「半殺し」「腹切り」「菓子が泣く」などの和菓子用語も、物語に興趣を添えています。
《一年に一度のデート》で『松風』を買うお客様の真意とは? 『松風』はちょっと見た目が地味な和菓子なので、そんなメッセージを隠し持っているとは思わなかった。…心に沁みる話です。 |
季節の和菓子が潤沢
アンちゃんが勤務し始めた5月~1月の季節の和菓子が出てくるのですが、どれもこれも美味しそうで堪りません。和菓子の菓銘を通して、日本語の美しさにも触れられます。
- 5月『兜』『薔薇』『おとし文』
- 6月『青梅』『水無月』『紫陽花』
- 7月『星合』『夏みかん』『百合』
- 8月『清流』『鵲(かささぎ)』『蓮』
- 9月『光琳菊』『跳ね月』『松露』
- 11月『亥の子餅』
- 12月『柚子香』『田舎家』『初霜』
- 正月『未開紅』『雪竹』『永松』
- 1月『早梅』『福寿草』『風花』
左から順に
『紫陽花』『水無月』『紅梅』
季節の和菓子の説明が丁寧になされているので、こんな感じの和菓子かなぁと想像しながら読むのも一興。
官能的って思わせる和菓子に出会ったことがありますか?アンちゃん、和菓子を食べたときの味の表現が豊かで的確なんだよなぁ。
主人公アンちゃんのお仕事奮闘記
アンちゃんはふっくらめの体型、特にやりたいこともない、ちょっぴり自己評価が低い誠実な女の子です。デパ地下で色んな人に揉まれ成長し、良さを見出だされることによって少しずつ変わっていきます。
季節の和菓子の説明も最初はたどたどしかったのに、どんどん洗礼されていきます。でもね、アンちゃんの魅力はここ!
とろんと口の中でとろける練りきりを味わってると、ジャムよりは固めの梅ゼリーが出てきて、それが微妙に歯ごたえがあって、すっごくおいしいんですよ!
『和菓子のアン』萩と牡丹より
こんなに、美味しそうに言われたら買ってしまうよ(笑)アンちゃん。味の再現力が高いわー。イケメン乙女の師匠にも、この点を褒められていますね。知識よりも客に訴えかける説得力と愛嬌が抜群だと。
あと、最初から椿店長はアンちゃんの賢さを見抜いています。人の話をやたらに鵜呑みにしない、流されないところ。そういう人間性って、一朝一夕で身に付くものではないけど、なかなか自分自身では気付きにくいところだったりします。
『和菓子のアン』はシリーズ化しているので、今後もアンちゃんが自分自身や和菓子の世界にどう向き合っていくのかも、注目ポイントです。
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