和菓子の製法~『薯蕷練切(じょうよねりきり)製』編

和菓子

こんにちは、年間100個以上の和菓子を食べるきりこです。

一番最初に『練り薯蕷=薯蕷練切(じょうよねりきり)』に出会ったときのこと

『こなし』みたいに見えるけど、ふんわりしてる。何だろう?

和菓子屋の店員さんに「練り薯蕷」ですよ✨と、にこやかに言われて「…ねり」と固まったことがあります。

“練り切り”と名前は付いていますが、餡ベースの『練り切り製』とは似て非なるもの。今回は、『練り薯蕷=薯蕷練切』についてお話ししたいと思います。

薯蕷練切の製法

左:薯蕷練切製

中:こなし製

右:練り切り製

こちらは『山茶花(さざんか)』をモチーフとした和菓子です。3種類の製法を見比べてみましたが…やはり、見た目では区別がつきにくいですね。

薯蕷練切(練り薯蕷)の製法

  1. 山の芋を蒸して、丁寧に裏漉しをする。
  2. 鍋に1の半量となる砂糖を入れ、裏漉しした山の芋を1/3入れて焦げないように練り合わせる。
  3. 2が沸騰したら、残りの山の芋を加える。
  4. 全体にムラなく熱を入れ、滑らかになるまで練り合わせる。
  5. 手に付かない固さになったら火を止め、冷ます。

あの食べたときの優しいふんわり感は、山の芋ベースだったからなんですね。練り薯蕷の優しい甘さに、いつも癒されています。

参考までに《練りきりの製法

白こし餡につなぎの求肥や山の芋などを入れ、火にかけてしっかりと練りあげる。          

※求肥:白玉粉や餅粉に砂糖や水飴を加えて練り上げたもの

華やかな新年の薯蕷練切

左:『紅梅餅』《両口屋是清》

右:『若松きんとん』《川口屋》

『紅梅餅』の赤い部分はこなし製、白い部分が練り薯蕷で出来ています。御蒸菓子御見本帳から再現した一品です。

御蒸菓子御見本帳とは、江戸時代の菓子絵図帳のこと。

得意先(武家公家、豪商など)に菓子の注文を承る際、現在のカタログのように菓子見本帳を使用していたそうです。

《両口屋是清》は時代に合わせた新しい菓子を提供するとともに、江戸時代の尾張菓子の再現にも取り組んでいます。

松は、冬でも青々した緑を保つことから縁起が良いとされ、また不老長寿の象徴として正月に欠かせない植物とされています。若松とは、正月のしめ飾りや門松に使われる小松のこと。黄緑の練り薯蕷きんとんで表した若松の中には、おこわ状の道明寺が入っています。

季節の情景を描く薯蕷練切

左上から時計回りに

『すみれ草』《花桔梗》

『落葉』《川口屋》

『下萌』《花桔梗》

『寒牡丹』《花桔梗》

《菫ほどな小さき人に生まれたし》と夏目漱石も歌に詠んだ『すみれ草』。深い紫の花を咲かせ、人々の目を楽しませてくれます。金箔を散らし3色で色分けされた練り薯蕷は、春の光の柔らかさと凛と咲く菫を表現しています。

散った木の葉は、何色も色が重なっていたりしますよね。『落葉』は、そんな晩秋の情景を描いた一品です。葉脈が引かれた練り薯蕷は栗が練り込まれていて、まるで栗きんとんを食べているかのような味わいでした。

『下萌』とは早春、地中から草の芽が出始めること、またその芽を指します。ほんの少し入っている緑に、雪景色だった大地に少しずつ春がやって来る情趣を感じますね。黄身時雨製の意匠の方が『下萌』の情景に合うとは思いますが、一番最初に食べた練り薯蕷なので思い入れがある一品です。

百花の王といわれる牡丹は、初夏に艶やかな花を咲かせます。年2回咲くように品種改良したものを『寒牡丹』といいます。雪の中咲く、どことなく儚げな風情の『寒牡丹』に、ふわっと柔らかな薯蕷練切の味わいはぴったりでした。

練り薯蕷製のきんとん

左:『萩の花』《和の菓さんのう》

中:『木守り』《川口屋》

右:『春の川』《川口屋》

秋の七草のひとつ『萩の花』は、美しい赤紫の花を咲かし、その風情を万葉集などの歌にもよく詠まれています。平安時代の襲(かさね)の色目で、表が蘇芳(すおう)で裏が萌葱(もえぎ)は秋の萩を表しています。《和の菓さんのう》の『萩の花』は、ちょうどその色合わせになっていますね。

※蘇芳(すおう):紫がかった赤のこと

『木守り』は、完熟柿入りの練り薯蕷のきんとんの中に道明寺餅が入っています。晩秋の自然の恵みをいただく一品となっています。

木守りとは

来年の豊作を祈って木にひとつ残しておく実のこと。

『春の川』は、散りゆく桜が川の流れにそって、優雅に流れていくさまを意匠とした一品です。ふんわり柔らかな口当たりが、春の水の柔らかさ、暖かさを思わせます。ただ、こちらの意匠、2020年には『花吹雪』という菓銘で店頭に並んでいました。『花吹雪』だと水色のきんとん(小田巻)が、桜吹雪が舞う風の流れに不思議と見えてくるのが面白いところです。

小田巻とは

筒状の道具を使ってモンブランのように巻き付けて成形するきんとん。棒状にした練りきり(薯蕷練切)を入れて均等に絞り出すようにする。

御菓子に対して菓銘をつけた時に、その和菓子の世界観が決まる。菓銘から情景を読みとるのも、和菓子の楽しみ方のひとつですね。

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